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わたしを見つけて

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 吸血鬼異変をきっかけとして設立された、スペルカードルールという名の決闘法。
 これを幻想郷の妖怪たちに広く知らしめるため、山の天狗たちが郷の各地に遣わされることとなった。
 広報部隊たる鴉天狗の一員としてこの任務に従事していた射命丸文は、その途上で不思議な妖精と出会う。
 チルノという名のこの妖精は、世にも珍しい陰の気を持つ氷の妖精であった。
 己の望みを達成のために彼女を利用しようと考えた文は、真意を隠した偽りの姿でチルノとの交流を深めていくが……

作者紹介

aho

 二年ぐらい前、創想話に何となく「お疲れババァ!」を投稿。創想話生活に入る。
 その後も叩かれて凹んだり酷評喰らって泣いたりしつつ、何本かSSを書いて今に至る。
 今回の合同誌には東雲さんのお誘いを受けて参加。
 東雲さんとNさんへのゴマスリに勤しみつつ、「お前の紫可愛いんだよコラァ!」「お前の紫威厳あり過ぎなんだよコラァ!」とか言ってPNSさんと殴り合う毎日である。

作品紹介

お疲れババァ!
敬老の日に子供たちが紫に「お疲れババァ!」と言って労う話。

・時には昔の話を その1 その2 その3 その4 その5
霊夢が一万二千年後の幻想郷にタイムスリップする話。

・ファンシィ☆ゆかりさま 前編 後編
紫がファンシーショップに行きたくて悶える話。

作品サンプル

「スペルカードルールねえ。なんだか面倒くさそうだなあ」
 目の前の男妖怪が顔をしかめてそう言うのを聞いて、文はまたか、とため息を吐きたくなった。
 周囲にはその妖怪の知り合いと思しき連中が集まっているが、誰もが同じような顔をしている。
 面倒くさい、意味が分からない、やりたくない。
「……ともかく、例として今から我々が一戦披露してみせよう。よく見ておいてくれ」
 公務用の固い口調で言いながら、文は少し離れた場所に向かって目配せをする。そこに立っているのは同僚だ。文同様、正装である軍服に身を包んでいる鴉天狗の若者。どこへ行っても反応が芳しくない任務にうんざりしたのか、彼の厳しく引き締められた表情にはどことなく疲れが見える。
 文としてもその気持ちは分からないではないが、仕事は真面目にしてくれなければ困る。
(準備はいいか?)
(大丈夫です)
 視線だけで軽くやりとりを交わし、二人は同時に地を蹴った。垂直に上昇し、晴れ渡った空へと舞い上がる。
 少しの距離を置いて向かい合った二人は、ほぼ同時に腰へと手を伸ばした。そこには天狗という種族の象徴とも言える、八つ手の団扇が差してある。それを儀礼的に掲げながら、文は朗々と声を張り上げた。
「では、スペルカードルールに基づいた戦闘を開始する。スペルカードは互いに一枚ずつだ」
 聞いているのか聞いていないのか、眼下の妖怪たちは退屈そうにこちらを見上げているばかりだ。
 文の声を合図にして、同僚が動き出した。縦横無尽に空を飛び回り、妖力で生成した弾を無造作にばらまき始める。
 その様子を見て、文は内心舌打ちした。こうして同僚と模擬戦闘を演じるのは、これが初めてではない。この任務が始まって以来何度も、同じような段取りで郷の妖怪たちを観客として行ってきたことだ。
 だからこそ、分かる。今同僚が展開している無秩序な弾幕も、一見風のように素早い動きも彼の全力とは程遠い、と。
 全力と言っても、相手を叩き伏せるだとか打ち倒すだとか、そういう意味の力ではない。
 一応「相手に弾を当てたり負けを認めさせたら勝ち」という取り決めはあるものの、このルールの基本理念は美しさを競うことだ。すなわち本当に重要なのは、いかに美しい弾幕を展開して相手と自分を楽しませるかということに尽きる。
 そういった視点で今の同僚を見てみると、弾幕も彼自身の動きも、この任務を始めたときより数段は見劣りする。
 端的に言ってしまえば、前よりも美しくないということだ。
(手を抜いている……いや、弾幕の形成に全力を尽くせる心境にない、とでも言うべきか)
 同僚のばらまくお粗末な弾幕を軽やかな動きで避けながら、文は内心ため息を吐く。
 同僚の気持ちも、分からなくはない。スペルカードルールを公布するために幻想郷全域にいる妖怪たちのところに赴き、彼らの前で実際に模擬戦闘を演じてみせる。それが今回の公務の内容だ。手加減抜きで暴れ回っている吸血鬼を力づくで取り押さえろ、などというのに比べれば、子供のお使いのようにすら思える簡単な仕事。
 だが、今回の任務を命ぜられた鴉天狗の中には、あまりやる気を出せないでいる者も多い。理由は大きく分けて二つ。一つは今まさに文たちが実感している、指導対象である妖怪たちの反応の悪さ。そしてもう一つは、指導役たる鴉天狗たちの中にすら、このルールの意義や有用性について疑問を抱いている者が多い、ということだった。
 今回文と組んでいる若者の態度にも、そういった疑念は見え隠れしていた。だが、生来の真面目さと仕事慣れしていない若さからか、文の指示には文句を垂れることもなく従ってくれている。この任務に従事している他の天狗たちの中には、おざなりに説明して適当に弾をばらまいてハイ終了、などと、形だけ取り繕うような仕事をしている輩も多いと聞くから、それに比べればまだマシだろう。
(全く嘆かわしい……なんて言えるほど、わたしも真面目じゃないけど)
 それでも文は、今回の公務には他の誰にも負けない情熱を持って臨んでいるつもりだ。それこそ、普段新聞作りに精を出しているときと劣らぬほどに。
 そのやる気の源は、端的に言ってしまえば純粋な興味と好奇心。天狗社会への貢献だとか忠誠だとか何とかは、文にとっては半ばどうでもいいことだった。
(もちろん、この仕事の出来がわたしの目標達成にもある程度は影響を及ぼすわけだから、手を抜くつもりはさらさらないけどね……っと)
 そのとき、同僚のスペルカードが時間切れになった。視界を埋めつくさんばかりに飛び交っていた大量の妖力弾が音を立てて消し飛び、雲が払われたかのように青空が戻ってくる。
 この光景には多少感じ入るところがあったらしく、眼下から誰かが息を飲む音が一つだけ聞こえてきた。
(一つだけ、ね。これだけきれいなものを見ていながら)
 眼下の妖怪たちの鈍感さを軽蔑するべきか、それとも一人だけでもこの美しさに気づけた者がいたことを喜ぶべきか。
 差し当たって、今はそのことについて考えている時間はない。文は目の前の仕事に意識を向け直す。
「では、次は私、射命丸文がスペルカードを使わせてもらう」
 一応形式に則っているとはいえ、こうしていちいち宣言するのは少々まどろっこしい。実際にこのルールに基づいた戦闘が頻発するような世がくれば、こういった形式は自然と省かれていくかもしれない。
 そんなことを考えながら、文は用意していたスペルカードを取り出す。自然と心が躍り、口元に笑みが浮かんだ。
 先ほどまで同僚が展開していたスペルカードは、風に吹き散らされる木の葉を模したものだった。彼はこの任務が始まって以降、ずっとそのスペルカードを使っている。無論、それはそれで別段不出来なものではないし、デモンストレーションという最低目標を達成するだけならば、それで十分だ。
(でも、それじゃあ面白くないでしょっ)
 文の笑みに気付いたか、少し距離を隔てた同僚の頬がかすかにひきつるのが見えた。
 またですか、とその目が言っている。
 もちろんだ、と文は頷いた。
「『幻想風靡』!」
 宣言と同時に、文は空気を蹴るように勢いよく飛び出した。